使いやすい彫刻刀、木彫ノミの鋼の秘密
彫刻刀と木彫ノミの記事で鋼のことに少し触れましたが、弊社の製品は研ぎに不慣れな初級者~中級者のユーザーさんでも使いやすいように「彫刻刀は切れ味の良さと持続性」「木彫ノミは欠けにくさと研ぎやすさ」を一番に考えて、鋼の選択、欠けにくくするための作業と厚さの調整を行っています。
今回はその鋼についてお話ししていきたいと思います。
彫刻刀、木彫ノミに使われる鋼の種類について
鋼の種類について全て話すと情報量が多すぎるので、今回は、木彫りの道具で主に使われている「安来鋼(ヤスキハガネ)」のことを説明させて頂きます。弊社の彫刻刀・木彫ノミも「安来鋼」を使用しております。
安来鋼は、切れ味に影響を与えてしまう不純物を極限まで取り除いた鋼で、その硬さや粘りによって黄紙・白紙・青紙に分類されます。
1つずつ説明していきます。
1. 黄紙
一般的な家庭用の刃物に使われるJIS SK材から不純物を取り除いた鋼が黄紙です。
2. 白紙
黄紙からさらに不純物を取り除き炭素を加えた鋼が白紙です。一般的に高級刃物と呼ばれるものはこの白紙を使用している刃物です。切れ味、耐摩耗性、研ぎやすさのバランスが良く扱いやすい鋼です。白紙は炭素量によって白紙1号・2号・3号と分類され、1号が一番硬い鋼となります。
3. 青紙
白紙にタングステンやクロムを加えた安来鋼の中でも最も硬く摩耗に強い鋼が青紙です。摩耗に強いということは切れ味が長持ちするということです。青紙は青紙スーパー・青紙1号・青紙2号と分類され、青紙スーパーが一番硬く、摩耗に強い鋼となります。
弊社の彫刻刀は切れ味が良く持続性がある安来鋼青紙スーパー、木彫ノミは欠けにくく研ぎやすい安来鋼白紙2号が使用されています。
鋼を硬く・欠けにくくするための3つの作業
鋼を硬く・欠けにくくする作業は大きくわけると3つあります。
1.鍛錬・火造り
「鍛練・火造り」は鋼を繰り返し叩くことで粘土のような粘りを持たせて強度を増すとともに、不純物を叩き出し、鋼を強く鍛える作業です。
2.焼き入れ
「焼き入れ」は鋼を硬くする作業です。焼き入れすることで鋼は硬くなりますが、そのままではもろく、割れなどが生じやすい状態です。
3.焼き戻し
「焼き戻し」は焼き入れしたものを再加熱して硬さを調整しながら、粘りや強靭性を高める作業です。
この「鍛錬・火造り」「焼き入れ」「焼き戻し」の3つの工程がしっかり行われることによって硬く欠けにくい質の良い刃物が出来上がります。
欠けにくくするための鋼の厚さの調整について
次は木彫ノミの記事の最後に少し触れた「鋼の厚さ」についてです。
「鋼の厚さ」をまずは下記の図で説明します。
鋼は、硬く、切れますが、もろく、欠けやすいです。なので、弊社で採用してる二層鋼は地鉄(じがね)で鋼のもろさを補うように作られています。
図のように刃全体の厚さのうち、鋼(グレーの部分)の比率が多いものは地鉄が鋼を補うことができず、欠けやすくなります。また、鋼の比率が多いものは欠けたときに大きく欠けてしまうので研ぎ直すのに手間がかかってしまいます。
弊社が全鋼を採用しない理由はここにあります。
今回の「鋼の厚さ」のお話で間違わないで頂きたい点があります。以前の記事で刃物は薄いと欠けやすいとお話ししましたが、これは「刃全体の厚さ、刃先の厚さ」の話しになります。
たしかに刃全体が薄いものに比べて厚いもののほうが欠けにくいのですが、鋼の比率が多いものが欠けやすいというのは変わりません。
つまりもっとも欠けやすいのは「刃全体が薄く、鋼の比率が多いもの」ということになります。
弊社では欠けにくくするのはもちろんですが、欠けたときにも大きく欠けてしまうのを防ぐために、鋼を研磨しながら鋼の厚さ(比率)を調整して製作しています。
まとめ
少しマニアックな話しもしてきましたが、彫刻刀は切れ味が良く持続性がある青紙スーパー、木彫ノミは欠けにくく研ぎやすい白紙、と鋼を使い分け厚さを調整することで、弊社の製品が初級者~中級者の方にも使いやすい彫刻刀、木彫ノミになっていることがお分かりいただけたかと思います。